『おでんの汁にウツを沈めて 44歳恐る恐るコンビニ店員デビュー』 和田靜香 著

著者の和田靜香さんは,現在『時給は最低賃金これって私のせいですか?』でブレイク中。SNSで時々お名前をおみかけしていたけど,その著者のアカウントと気付いたのは最近のことで,早速そのベストセラーと本書を買ってきた。和田さんは,音楽ライターであり相撲ライターだそうだが,CD不況の影響で仕事が激減したことからコンビニバイトを始め,その体験をもとに本書は書かれている。元々のスタイルなのか軽快な文体で,明るく前向きに(ウツについての記述も出てくるのだが,さらりと通り過ぎる)アルバイトを通じた筆者の体験をどちらかというと面白おかしく読める。イラストも秀逸。

バイトの期間は,東日本大震災前から,震災を挟んだ約二年間ということで,この時期のコンビニの雰囲気が店員の視点から克明に描かれていて少し見方を変えると当時の日本(多分東京のどこかでしょうね)の記録として後々よい読み物になるような気もする。

コンビニの裏側がどうなっているのかは,バイト経験者にとっては「あるある」の世界なのかもしれないが,知らないものにとってはやはり想像どおりのたいへんさだなあという感想。コンビニを経営するオーナーの苦労話はいろいろと読んだり聞いたりしていてだいたい想像していたけれど,経営の問題を抜きに店舗運営だけをとっても,基本的にアルバイトに全面的に労働力を依存することの不安定さは少子高齢化の日本においては結構深刻なのではないだろうか。和田さんの勤めていたコンビニでも主要な店員はみんなおばさんのようで,しかし,この方たちの仕事ぶりは文章からはとてもよさそうである。日本(に限らないでしょうけど)の大きな問題のひとつは,能力のある人が仕事を得られずに埋もれていたり,よい仕事をしていても容易に報われないところにあって,その理由についてはまた別の機会に考えてみたいけど,確かなのは,仕事が激減したといっている和田さんの書かれる文章はお金を払って読む価値が十分にあるということ。

コンビニに買い物にくるお客の描写もとても興味深い。万引きおばさんも含めて,実にいろいろな人がやってくる。中には横柄な客,嫌な客もいる。ふつうの日本人のよそ行きではない姿がここにある。

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